バンドマン帰らず
ただのみきや

鱗がすべて剥がれると
女はかたちを失くして空になった
砕けた酒瓶のモザイク
背徳のステンドグラス
これら切り傷はすべて風景によるものだ

昼の弁当を持たない子供は母の靴紐で綾取りをした
奇跡はがらんどう
がんじがらめの宇宙船
綾取る橋で首を吊ることばを話すくらいなら
巨大な聖書が北から倒れて来る前に

開かない瓶の蓋
ガラス越しに揺らめいている愛は琉金のように
歎願する 妖艶に
すべて答は透明のまま常にそこに在る
瓶の中身が陰部にすり替わる

バケツで雑巾を搾る腰の曲がりから
流れ落ちる滝のニヤニヤした顔
名無しの音は花につまずく可憐さ
姿なき記号のメリーゴーランド
象形が裂けた──擬態する何かが頭にめり込んで来る

抱いているのは奇形のサボテンか
イクラとナッツが零れ落ちる開いた鳥の遥か彼方
恐怖は無表情のまま一点の釘痕を見た
鏃──ずれてゆく時代の断層からさかしまに
かの清掃夫に挑み続ける汚れ滴る染みとして

わたしは矛盾という双子を妊娠した
イタリア人のアコーデオン弾きが海にパイプを落とした日
すべての抽斗が空っぽの日食と情を交えたのだ
月の観覧車が早くなるほど齧られて薄くなり
わたしは食い破られる 回転する光の環

耳元に潮は満ち
素足を舐る未来の残滓が泡沫に映り込む
つるはし一本 地獄への突貫工事
二色刷りの父性が赤子にもどるころ
乳房の代わりの煙草が天の尻をくすぐっている
 

                     (2023年3月4日)











自由詩 バンドマン帰らず Copyright ただのみきや 2023-03-04 16:26:24縦
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