メモ
はるな



そうなってしまって初めてわかるということがままあるのだが、春が来ることもそうだ。それは毎年決まって来るのにね。そしてそのたびちょっと絶望する。

今年のお誕生日には、姉といもうとが花を贈ってくれた。濃いピンクと淡いピンクと、うすきいろと白とさまざまな緑色の花たちだ。この部屋へ引っ越して来てから、あっという間に半年が過ぎてしまった。いくつかの求人にメールを送ってみたものの折り合いがつかず、結局まだ部屋の中にいる。
部屋のなかにずっといると、自分には何もないような気がしてくる。それは寂しい気持ちだから、花を生けたり、絵を描いたり、派手なシャツを着てみたりする。求人広告を見たり、かたまり肉を焼いてみたりする。そのうちに娘が帰ってくると、ほっとしてちょっと昼寝をする。夜になると夫が帰ってきて、ますますほっとして眠る。ママ眠たい時いつでも寝ていーんだからね。とむすめが言う、焼けた肉を切り分けたあと、ありがとうと言ってそれで本当に眠ってしまう。眠たくて眠るのは気持ちがいい、寂しくもないし、怖くもない。明日の分のパンは買ってあるし、洗濯機のフィルターも掃除してある。

そんなふうにしてたからまた春だ。会いたい人に会える気もしない。本を読むのだってしんどいし、なけなしの気力で花の水を替える。狭いベランダではビオラが咲き狂っているし、フリージアの蕾もそろそろだ。
外へ出ていくのは簡単なことのように思えた、帰ってくればいいだけなのだから。帰ってくると言うのも、ますます簡単なことのように思っていた、だってここに部屋があるのだから。


散文(批評随筆小説等) メモ Copyright はるな 2023-03-02 15:01:01
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