土と銀
ただのみきや

凪いでいた
こころは
畑の隅に捨てられた乾いた豆の鞘のよう
燃やされることもなく

冷気の中で目を覚ます
落日よ 
遠く烏たちを巻き込む業火の蕾
咲きもせず散りもせず

ふくれあがる
誰の夜か
鏡に飢え
水を踏みひた走り

吸気へと変わり立ち枯れた
あの声は
誰の荒野か
地の陰部があらわになった

瀝青の河を釣り針のように
つながりを失くした疑問符が流れてゆく
生えてくる小さな人形の手が
脳の皮質をかきむしる

見上げることで流れ込む
瞳のアリジゴク
世界は感覚に閉じ込められ
目隠しに溺れながら記号に縋りつく

肉体から乖離した傷口が捨ててあった
女の裸のように吸い寄せられて
わたしはなにをさらすのか
畑と雑木林の間でバラバラになって

ああ腸は蛇
心臓はうさぎに
だが天へ開いた鳥籠はいったい

あの過去からの
美しい甲虫の鞘翅に似た輝きを添えて
黒焦げの礼拝者を模倣する
十指の壺 歪なる喪失──

鈴を噛む女 せめて瞬きの間だけ


                    (2023年2月25日)










自由詩 土と銀 Copyright ただのみきや 2023-02-25 11:22:32縦
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