逃避ではなく殺害
ただのみきや

わたしは曇ったガラス窓
指先で書く文字の向こう
許容できない現実が冬の仮面をつける

ひとつの痛点が真空を真中から押し潰す
円く膨らむ響きの肢体 震えの侵食を
包む衣としてまなざしは海
水際で溺れる者 かもめの宣誓

 救済は過去を美しく繕うこと
 今を快楽ですりつぶし
 未来に関心を寄せぬこと

 慣用句を避けながらも江戸の庶民のように
 流行りの端切れで繕ったものを自前の作とし
 汗臭くすり切れた鼻緒でさるぐつわを噛ます気か

 ああ無風 旗の死よ 標本箱五条三丁目15番3号
 愛でることは死者の特権だ
 振り向けば相殺される生に対し
 獣の瞳 合わせ鏡のとらわれに
 いま小気味よく鋸を引くわたしはわたしの心臓を

奇形の過去を孕む
耳元をさすらう肉厚なまぼろしに縫い付けられた影
そこに敷物を広げてままごと遊びをしよう命がけの

互いの骸を持ち寄って火をつけて
煙を膝にのせてかわいがれば
現実とわたしは互いに首を絞めあう

棚から落ちる幸福が頭蓋を砕く朝に
記号のパースはバラバラでいい
所詮は時限爆弾の類ただ視線を透過させるだけの



                 (2023年2月4日)










自由詩 逃避ではなく殺害 Copyright ただのみきや 2023-02-04 16:11:50縦
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