つやつやの犬のこと
はるな
つやつやの犬はコンビニの手前の曲がり角にいる。もちろん曲がり角に建っている家で飼われている、という意味だ。朝はカーテンの隙間から外を覗っていたりする。50代くらいの男性に連れられて散歩する姿も見かける。ときどきは、庭に座っていたりもする。
約束もなく過ごしている。外は寒く、部屋はあたたかい。窓を拭き、床を磨き、植物たちに水を飲ませる、あいまに簡単なものを食べる。夕方になると娘が帰ってきて、部屋はもっと暖かくなる。
ときどき、娘の友達が遊びにくる。小柄で、可愛らしい子供だ。部屋へ上がって、娘とテレビを見たり、クッキーや飴を並べて何やら嬉しそうに話しながら食べたりする。それをわたしは、少し離れたところでうつらうつらと聞いているのだ。
本当にもうなにもいらなくなれば良いのにと思う。思うが、もちろんそんなわけには行かず、毎日牛乳だの卵だのが足りなくなるし、気づけば窮屈になる娘の靴も買い替えなくてはならない。良い色のビーズをうっかり買ってきてしまったりもするし。本を読めば恋をしたくなるし、夢を見れば旅をしたくなるし。
今はとても寒いけど、春が来ることがわかっている。それまでには何か仕事をはじめたいし、するなら、面白いことがいい。手や体が疲れても、心が動くことがいい。今はたんに、全部が動きにくくなっているだけだ、と思おうとする。思おうとする、それは本当になる。
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