初期化の螺旋
ただのみきや

雪は走る床を裂く鋸のように
摩耗した光の道で苦笑する花は砕け
蝸牛の胆汁より苦くほとばしった
祈りの結露に午後は潮解する

書き変えられた値札の意味を問う
蔦のような沈黙が蓋のない箱を締め付ける
きみの鍵は齟齬を許さない
羽毛舞い散る部屋の中で自分の脳を掬い上げ
デッサンする屈めた膝から記号に変わって
ぼくの神は死語を許さない
生の余剰が行き場を求め脚もなく液化した
手のひらで弄ぶ賽子は口づけ

ぼくは仰向けに布石された盲点だった
熟れた風のマフラー氷の八重歯
人もまばらなマーケットできみの鬼門はさざ波のよう
縫い閉じたページを甘噛みしている
余力のない世界に刺さった白い体温計
詩は卒塔婆と目を覚ました水銀の

糸を切れ すべての糸を
斬首された音が文字となって転がる丘
あとかたもなく息を乱し馬乗りになって
あの金の恩寵降り注ぐ世界の裂け目釘痕で
磨き上げられた自虐の球形となり得たなら
帰って来い 自分の中を血の海にして
雪の処女性をまとう死者
絶えずあざむく真実として



                   (2023年1月21日)










自由詩 初期化の螺旋 Copyright ただのみきや 2023-01-21 12:39:46
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