騎士団長殺し
TAT











人生にはたまに眠れない夜も来る








そんな日は寝るのを止めにして











いっそ外に出てしまう








Barでお酒を飲む







静かな良いBarで

















静かな良いBarは高価だ









ウイスキーが一杯三千円とかするけれど



(こだわり抜いたポテトチップスだって小皿で六百円だ)

















凡庸な店とは





椅子が違うし




グラスが違う





マスターの間も違う
















四十分で一万二千円ぐらい取られるけれど

(まぁ「安いなオイw」って嘲笑う人も勿論いるだろうけれど僕の分布してる棲息エリアだとこの辺が限界だ)






だが物は本物だ
だからそれは








自分の魂を四十分鎮めるための価格は


一万二千円もするんだなと捉えて


自分が少しは値の張る人間であると


自覚して満足するようにして生きてる












知多とかアイラとかよく分かんないけれど




この喉を焦がす
琥珀色の液体が
コンビニの酒瓶よりも
深く複雑な事は分かる










シャインマスカットとか

伝説の合鴨とか

何て事ないチョコレートやミックスナッツまで

こだわり抜かれていて

いちいちそれらの生産者さんと

マスターが握手している写真が

メニューに添付されているのを見ると

「あぁ。この人は本気だな。この人は良い人なんだな」と

そう実感するし

この店の諸々を信頼してみてもいいなと思う













Q 海外の本場で一流のブレンダーによる講習会があってですね
参加したんですけどそこで聞いたんですよ
数十度もするウイスキーを何杯もテイスティングしていて鼻や舌が馬鹿になる時はありませんか?どうやって鋭敏な感覚を維持し続けるんですか?って
そしたら大丈夫
そんな時はある事をすれば一瞬で感覚が戻る
って言うんですね何だか分かります?




深呼吸
違います

パンとかを食べる?
いえ

鼻うがい


違います

もっとこう即座に出来る事です




























僕は松屋の牛めしとか
うまい棒とか
ブラックサンダーとか
サッポロ一番のラーメンとかを
忘れるような生き方はしたくない








と同時に






一杯五千円のブランデーや
一本一万円のタバコや
一切れ数千円の豚肉も否定したくない













どっちも本気だからだ

どっちも戦っていて

格好いいからだ































































僕の人生には妻も子も無いけれど

代わりにこの深く重苦しい

漆を塗り込めたような紫色の夜を


向こう岸まで無事に渡る術を





今夜はBarに見出だしてみる






















































































































































A 嗅ぐんですって
自分を
自分の体臭を嗅ぐんだと
そうしたら一瞬で感覚が元に戻るらしいです












人生にはたまには眠れない夜も来る

















僕はさっきBarで飲んできた











帰りにコンビニで
好きなウイスキーを買って帰った

ブラックニッカだ

トランプのキングみたいなやつだ












今夜はこのあとこれを飲む











王様を試す











さっきの酒と王様を比べる









値段は雲泥だが







彼もきっとやってくれる筈だ







もちろんそれを
王様にも事前に伝えて負荷を掛けるし










それも含めて公正にジャッジするつもりだ













































今夜もこの夜を無事に渡れそうだ


今夜も夜を無事に凌いだ


























































自由詩 騎士団長殺し Copyright TAT 2022-11-13 16:39:13
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