腸腸夫人
ただのみきや


赤い糸屑が絡んだあばら骨
ソフトな拷問の日々

互いの影を踏まなかった
ひとつに溶けるのが怖かった

通過儀礼から逃げ出して
淫らな踏み絵に額突いて

眼球は自転する
息は静かすぎた

ぼくは塵になって木洩れ日に見つけられる
階段の踊り場から振り返り
希望のメタファーは地の底へと下ってゆく
蝶たちのまつわり戯れる爪先が最初に当たった
しゃれこうべがぼくだ

常夜灯になったあなたへ
青が争う静けさとはいったいなんだ

秘密に焼かれて唇が爛れている
感嘆符と疑問符だけが遺骨のよう

先鋭な意思としてのペニスが
歴史をまとった土着の母神の破顔のヴァギナに挑みかかり
飲み込まれては混沌へ回帰する
なん度身ごもられ
なん度生み出されても
母神を犯そうとしては母胎へ回帰する

歴史は礼服のようなもの
われらの英知もまた一定の傾斜を保つ灰の山

夜の海で目を洗う
目は無数の死者の声を嘔吐する

わたしが宿した真珠
階段も梯子もないところで青と争う踊り

口を塞がれたまま男は下着を脱ぎ続けている
死と和めない集団の碁石のような軋みの中で

おもちゃ箱が歌っている
蜘蛛の巣に架かったままの兵士たち時計の中で

握りしめた種子と頬を濡らす快楽
後ろ向きにスキップする首のない子どもたち

象形文字の子孫たちの黒いしみが
愛人の咀嚼に耐えられず潮解してゆく

記憶の包み紙を開いてきみの片言を頬張った

窓の外は隠喩のほほえみ
年老いた女神の体臭
胡桃の殻に包まれたまま腐ってゆく叫び






われらは裏返えされた存在
記号が内包されて見えない隠喩的果肉
絶えず乱れて波立つ鏡の鱗と対峙する
自己の鏡像と交換し黒く重複し続けて
その脈は四次元に蔓延っている
だがことばほどかけ離れたものはない
われらの呼び名な主題ではない
鈴とそれを鳴らす棒の関係でなければならない
裸の音楽こそがそれに近く
ことばにすることは矛盾の体現そのものだから
双六のサイコロを振るように
延々と置き換えるだけの一人影踏み
ありもしないボールでリフティングして
てきとうなところで落としては
音の抜け殻を並べている
われらは生と死の境界を絶えず跨いでいる
生まれついての老人
永遠のこどもであり絶叫する胎児である






郵便ポストを強姦せよ
投函口を縫合せよ
すべての死者を手紙として未来へ送れ
過程を料亭に変えて接待せよ
骨盤と顎骨を脱臼させて
きみらは黒い蒸気機関
向日葵畑で猿を追いかけろ
映画のような遠景の
大腿骨を引っこ抜け
着ぐるみ脱いで逃げだして
裸足で昔話を駆けてゆく
アイスクリームを背負ったまま
カチカチ山で痴漢せよ
堕ち武者狩りは未完
近親憎悪を利き手でしごきながら
ニイタカヤマをかけ登れ
よだれを垂らして団栗を拾い
ゾウムシの幼虫に咽び泣く
潜水艦は鏡に顔をつっこんだまま
窃盗犯へ魚雷を放つ
後ろから前から強襲し
大臣たちを視姦せよ
もの見のやぐらの首吊り女よ
ジャマイカ・ラムに蛸の吸盤
サラミソーセージ斜に咥え
はらむ山姥に祈願せよ
甲羅に書いた恋文が
時空に展開されてゆく
七重八重
十二単の妄想絵巻
民事を恐れるな
まんじゅうを強奪せよ
ヒトリガのように纏わりついて
やつら局員を死姦せよ
テラバイトのアルバイト
こびとの恋人
死別とキャベツの恋愛論に
金粉と接吻のランタン
愚にもつかないグラタン
恥辱をいじり合え
互いに母音を誘い出せ
蛇の耳には熱い吐息
祈りのことばが二つ折られた朝
糊しろでは色盲の星たちがもがいていた
駱駝の目でバサバサ羽ばたく嘘つきども
赤い車を爆破せよ
塞がれたポストの中
情念は熟成されてゆく
妖艶なガスの踊り子たちも
きみら彼らの水彩的遠浅では
解ではなく貝になる
もしくは怪 あるいは壊
ことばは人肉に飢えている



                《2022年10月1日》









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