仮面を愛した少女
st

俳優というものは

化粧はするし
豪華な衣装も身に着けて

いつも演技という
仮面をかぶっている

観客はもちろん
俳優自身でさえ
それに気づかない事がある

そんな
仮面を愛してしまった
せつない少女の話をしよう


少女は
少年の素晴らしい演技に
恋をして

毎日のように劇場がよい

少年も
熱烈なファンの
少女に恋をする

ロミオを演じる
少年に恋をした

というだけで
悲劇的な結末を
予感させてはいたが

二人の恋は
最初からすれ違っていた


少年は
本物の現実の恋を
生まれてはじめて味わう

つくりものの恋の演技が
いかにむなしいものかと

少年がそれまで
一生懸命やってきた

俳優の世界が
粉々に砕け散ったのだ

そんな少年の
突然ヘタになった芝居に

演技に
恋をしていた少女は怒り

そう
あなたはそれをすべて殺した

私の想像力を
かきたてる人だったのに

もう
こんな三流俳優には
二度と逢いたくもない


責めたてる

少年は泣きながら

再び
素晴らしい演技をみせますと
すがりつくが

その手を
容赦なくふりほどき
残酷に去ってしまう

しかし
少女はその後すぐに

若さゆえの
一時の激情をくやみ

約束した結婚を
了承する手紙を
少年に送るが

すでに自殺した少年には
届かなかった

何という悲劇だろう

若さとは
何とおろかなものなのだろう

俳優という
素晴らしい職業さえ

空しいものと思わせる
若さゆえの浅はかさ

少女の
若さゆえの残酷さ

少女も
そののちすぐに

少年のあとを追うように
不思議な死をとげる


青春の若さという魔法で


なにもかもがキラキラと輝いていた世界


それはこわれやすい


ガラス細工でできていた





自由詩 仮面を愛した少女 Copyright st 2022-09-15 04:09:44
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