リアリティ・バイツ
ホロウ・シカエルボク


亡霊どもの集まる夜を待って、冷えたジンの酔いと性格の良くない音楽、クルーエル・ワールドに迷い込んだ、美しい世迷言と意味の無い羅列のパレード、心臓が不規則に血液を飲み込んでは吐き出す、人生の意味なんて言い始めたら詰まるところそんなものでしかない、音楽は終わった夜にこそ永遠になるものだ、だってそれは不自由な肉体を超えたいと願うものなのだから…どこかに抜け穴があるだろうか、近頃の夜は少し、息苦しさが過ぎるのだ、自業自得と言ってしまえばそれまでだが、正しい方向へ向かうだけなら人間など蟻と同じものだ、そうだろう?バランスを欠いた呼吸が乾いた空気にあてられてしばらくの間ひどく咽こんだ、製作段階で不備が発見されなかった迷路のようだ、あらゆる角を曲がってみたが壁以外の景色が見つからなかった―それを愚かだと笑うのは最初の壁で諦めた者だけさ、徒労を知らずに結論を得たものたちは打たれる痛みを知らないままだ、そんな人生が掴む幸せになど爪の先ほどの興味もない、どん底まで落ちた時、そこで見つける光の眩さをやつらは知らない…荒唐無稽なまぼろしが天井と床の間で軽過ぎる塵のように浮ついている、そんな微妙なズレをすべて容認して、なおかつ僅かばかりのフレーズを手に入れる、そんなことの方が喚き散らすよりも狂気であることもたまにある、以前にも少し似たようなことを書いたことがあるけれど、そいつをある程度飼い慣らした俺は割と稀なケースさ、だって、どちらかと言えばみんなそこで完全に狂っちまう方が美しいと思いがちだからね、押し売りのように語る連中、よく居るだろ、あいつらは失敗したんだ、狂っちまえなかった、だからさ…その辺の誰かに絡まなくっちゃあ、自分自身の尊厳すら守れやしない、でも俺にはそれは汚染された河川の水面に浮かぶ、妙に粘度の高い泡みたいに俺には見えるよ、本当の闘いはひとりでするものだ、誰かに売りつける喧嘩で得ることが出来るのは勝ちか負けだけさ―俺はひとりきりの闘いを続けてきたんだ、もう思い出せないくらい昔から…そうしていまだにそれを続けているというわけさ、何故かなんて考えたこともなかった、ただどういうわけかそこから離れることが出来ないのさ、中毒のようになにかを更新したがっている、そうしないと上手く眠れなかったりするんだ、無理矢理眠っても肺に絡むような夢を見るばかりさ、考えてごらんよ、神様について考えるのはすやすやと眠れる夜ではないだろう、小さなソファーに飲み込まれそうになるこんな夜のはずさ、俺の欲望はそんなバランスの中でしか昂らないのかもしれないな、ま、幸せなやつの方が夢見がちなのは当り前のはなしだけどね―俺の目には自分のしていることが時々、黒魔術のようなニュアンスに映ることがある、その鍵について簡潔に語るならばおそらくは冒涜という言葉になるだろう、自分自身の冒涜、社会の冒涜、世界の冒涜、神の冒涜―そこには少なくとも複数の認識がある、わかるだろ、ただ信じることは選択肢を少なくするのさ、出口の無い迷路の話、前にしたよな?ここで語っているのは信じるって行為にはそういう結果に行き着く傾向があるってことさ、もちろんそこには、個人差だってあるけどね…神や、社会や、自分を信じていたって素晴らしく広い視野を持ち、どんな現象にも確信を持って臨める人間も居る、だけどそういうやつって、なにか個性を著しく欠いたような不自然な感じに思えるね、自己啓発本を読むのとあまり変わらない印象とでも言うかね―上澄み液のような真実は欲しくないんだ、不純物や酸味、雑味を抱えたままの瞬間を確かに捉えたいのさ、つまりそれが冒涜ということなんだ、イズムはとにかく無菌室に入りたがる、ちょっと前に死んだやつも歌ってたろ、吐気がするほどロマンチックだ…って、酒を飲むと決まって軽い頭痛に襲われる、でもそういう頭痛からは逃げ出すことも容易いんだ、少しの間目を閉じているだけでいい、そしてそういうことは、悪い酒の飲みかたをしないとわからないことでもある、経験にはそれほどの違いはない、どこかの王室とか、映画俳優とか、シンガーとか…そんな人間を除けばね、経験というものにはそれほど違いはない、ではなぜ個人差が生じるのか?そこから何かを受け取ることが出来るやつと、出来ないやつがいるわけさ、最初の壁で残りを投げ出すやつと、投げ出さないやつさ、いや、もちろん、あらゆる出来事を様々な側面から検証して、沢山の学びを得ながら生きたからって、なにかわかりやすい成功を手に入れるとかそんなことはないさ、だって、本質的に学びというのは、現実的な成果というものとは無縁のものなんだ…もっと言えば成長ってものに関して、成功や成就や完成といったものごとはまるで重要ではない、極論に聞こえるかもしれないが、成長という現象に関して、そこに他者の介入はまるでないからだ…不要なのさ、言っただろう、ひとりきりの闘いだってね…それは独りよがりなもので構わない、人間なんて結局はひとりきりの生きものなのさ、だってその方が、意味を求めやすいだろ、近くに誰が居ようと関係ない、誰だって本当はたったひとりで納得のいくまで考えてみるべきなのさ、そしていつか、不良品の迷路の中で最後の壁に出会ったとき、もしかしたらその壁は偽物だって気づくことが出来るかもしれないぜ…。



自由詩 リアリティ・バイツ Copyright ホロウ・シカエルボク 2022-09-09 23:37:19
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