欲望のピープサイト
ホロウ・シカエルボク



どこかにそれがあるんだよ、きみが欲しくてたまらないときには
決まってきれいに隠れてしまうそいつ、油断大敵
見つけようなんて間違っても考えちゃいけない
探せば探すほどどこにあるのかわからなくなる
そうしてついには投げ出してしまう
気持ちが昂ってるときには誰しも近寄りがたいってもんだよね

肩の力を抜いて、深呼吸するんだ
どうしてそれが欲しかったのかというところから考えてみよう
もしかしたらものすごく似てるなにかがあるのかもしれない
きみが欲しがっているのは本当はそっちかもしれない
きみは一度そいつのことを忘れるくらい気を抜いて
自由な気持ちで周囲を流れているものを見つめなければいけない

大切なものは懸命に追いかけなくてはいけない、それはそう、もちろんそう
けれど熱を込めすぎたら
冷めちまったときどうしていいかわからなくなるぜ
いいかい、気持ちを込めようがのんびりとやろうが
実際結果なんてそんなに変わらないもんなんだ
それはたぶん人生を賭けて追いかけるものだから
だけど気持ちが盛り上がってるときって、際限なくやっちまうよね
わかるよ、俺もそうだったから
いつまでだって追いかけられる、そんな気がしたものさ

でもね、そいつは一度失速するんだ、熱が冷めて、そいつに微かに繋がっていたものがまるで違う感触に変わってしまう、そのことは覚えておいて欲しいんだ
追いかければ追いかけるほどそれからは逃げられないからさ
そこに陥ったとき、逃げ出しちゃいけない
追いかけたことのすべてが無駄になっちまうだろ
もちろんやめなくちゃいけないこともあるかもしれない
けれどそれこそ自分でしっかりと見極めなきゃいけないことだ
もしかしたら二度と戻ってこないものかもしれないんだからね

追いかける日々の中できみは学んだはずさ、本気の自分に出来ること
まっしぐらに立ち向かったそいつに今度は
違うルートから辿り着くのさ、そいつはかなり骨の折れる作業だぜ
情熱の中にあったものを平熱の状態で模索するんだ、わかるよね?
頭で考えただけじゃとても出来る気がしないかもしれない
けれどそれまでがむしゃらにやってきた感触は
ところどころできみに幾つかのサインを残してくれるだろう
冷静に探し続けていれば
きみはそれに必ず気が付くはずさ
情熱とは熱のことじゃない、要するに集中力なんだ
そいつは常に研いでいないとどこかで失われてしまう

どこかにそれがあるんだよ、追いかけ方を見つけないと
長いこと背中すら拝むことも出来なくなる、そいつ
それはもしかしたらかたちを変えながら移動しているのかもしれないね
きみが上手くやっていると時々不意に向こうから近づいて来て輪郭を覗かせたりするよ
超常現象が好きなやつの家の窓を横切るUFOみたいにね
見え始めるとますますやめられなくなるぜ
結局さ、わかることもわからないことも
わかるたびに増えていくからやめられなくなるんだ
そうして何度かは
自分の力でかなり近づいたって思える瞬間も訪れる
けれどそのたびに
ちょっとずつ違う部分があるように感じるんだ
その瞬間が一番こう…静かな興奮を呼び起こすんだよな

どこかにそれがあるんだよ、だけどおれだって
そいつのことをはっきり全部見たことはない
逃げるのが上手なことだけはわかっているけどね
でももしかしたらそこから間違っているのかもしれないな
僅かなアクセルとブレーキの踏み間違いで
追いかけてるこっちがわずかに道を逸れちまうのかもしれない
どこかにそれはあるんだ、でももしかしたら
あるって思った瞬間に遠のくのかもしれないな
思うに、本当にそいつを理解しているのは
こうやって話してる俺じゃなくてもっと別のセクションに居る俺のアンテナだぜ

痺れるような快感は忘れられない
そいつは金で買えるどんなものよりも尊いものさ
きっとね、遠い昔
本当に目を開いた何人かの人間が見つめ続けてきたもの
そのときから、ずっと
どこかに在り続けた、そいつ
俺は舌なめずりをする
狩りの上手な獣は
臆病で用心深い草食動物の喉笛を一瞬で捕らえることが出来る
もしかしたらこれはそういうことに近いんじゃないかって思うんだ、だって
捕食者って、一回食べて終わりじゃないだろう…?
感触が変わるのは、きっと



そのたびに血肉に溶け込んでいくからさ


自由詩 欲望のピープサイト Copyright ホロウ・シカエルボク 2022-09-07 22:24:18
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