盗賊ヨランとの契約(四)
おぼろん

「ううむ」と、アイソニアの騎士は唸る。盗賊ヨランが、
ある種の決意を持って、この邸宅に忍び込んできたことは間違いあるまい。
しかし、彼の言うことが正しいとも限らない。この旅は単なる失敗に、
そして、エインスベルの生も処刑によって終わらないとは、限らない。

(いや、これはむしろ俺の問題だ。俺自身は、ヨランに託すだけの、
 何物か、あるいは何事かを、持っているのだろうか……
 俺は今、単なる感情に駆られているだけなのかも知れない。
 自分の力を過信しているのかも知れない。奴は、世界のことを考えろと言ったのだ!)
 
その悩みは、深いものだった。アイソニアの騎士は、再びライランテ戦争のような、
戦乱が起こることを望んではいなかった。しかし。次なる戦争の一つの鍵は、エインスベルであろう。
祭祀クーラスも、それを恐れたからこそ、エインスベルを監禁したのだ。

「世界とは、俺たちの意志によって変えることなど、出来ないものであろう。
 一つだけ、教えてほしい。俺たちのこの旅は、本当に俺たちに幸せをもたらすものなのだな?」
「わたしに言えることは、あなたはそこで意外な人物に会うであろう、ということです」


自由詩 盗賊ヨランとの契約(四) Copyright おぼろん 2022-08-14 18:01:49
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