それは猫だった 3
RAVE

私は掌を合わせていた。
いつもなら般若心経を唱えている所だ。
目の前には先祖代々の位牌が並べられている。
頭の中は仔猫でいっぱいだ。
ただ合掌しているだけの
格好だけの姿だ。

用事というのは
祖母が毎月通っている寺に出向き
家内安全を祈祷してくれる施餓鬼だった。
一般的にはお盆に行うらしいが
この地域では毎月行っている。
と言っても檀家さんが4世帯ぐらいの
とても小規模なものだ。

先月祖母が認知症の祖父を探していた所
石に躓いてうつ伏せに転倒し
頸椎を損傷して寝たきりになった。
なので祖母の代わりに実家の家内安全を祈祷しにきたというわけだ。
今回が二回目の参加である。
とても信仰心の強い祖母なので
是非代わりに参加してきてほしいと切望された。

私はご先祖様とか魂とか
所謂霊的な事が好きなので
寺に来る事は嫌では無いし
お経を覚えるのも好きだ。
般若心経は20代で覚えたし
次は妙法蓮華経観世音菩薩普門品偈を覚えたいと思っている。
前回参加した時は経本を追いかける事しか出来なかったから
次回までには少しでも付いていけるようになっていようと考えていた。

でも今日の私の頭の中はそれどころじゃなかった。
仔猫を保護した。
仔猫と出会った。
仔猫は今頃病院に行っている。
大丈夫だろうか。
生後何ヶ月なんだろうか。
性別は?
オスだったらいいな、これまでメス猫を飼った事が無い。
実家は猫が集まる場所だったから
常に猫と関わっていて
野良猫にエサを上げたり
ケガをした時は病院に連れて行ったりした。
今まで何匹も飼ったけれど
メス猫がいた事はほぼ無かった。
ほぼというのは、実は二匹メス猫を飼った事があったが
一匹は徐々に体を悪くして数日後の朝
玄関先に置いてあった
段ボールの中で死んでいるのを見て号泣した辛い記憶がある。
もう一匹は庭先で九匹子猫を産んだあと急に居なくなった。
それにメス猫はオス猫よりも警戒心が強いので
仲良くなった事がなかった。
なので、私の心の中では
メス猫は飼わないようになっているんじゃないのかなと
なんの脈絡もないが
そう決めつけていた。
だからあの仔猫もオスのような気がする。

今日に限って、このあとも予定を入れている。
次に仔猫に会えるのは夕暮れ時だ。
早く用事を終わらせて仔猫に会いたい。

きっと今日の私の頭の中を見て
仏様は
「こいつ雑念ばっかりで全然集中してねーな。」と
呆れているだろう。
今日ばかりは許してください仏様。

施餓鬼が終わったあとに皆で菓子を食べながら
茶を飲みながら談笑するというのがある。
私は次の目的地に向かう為急いでいたが
菓子と茶はしっかりと頂いて寺をあとにした。


散文(批評随筆小説等) それは猫だった 3 Copyright RAVE 2021-09-29 19:52:49
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