珊瑚草を喰ふ話。
46U

 シーアスパラガスというものを見つけて身請けした。イスラエル産らしい。
 植木で見るような、ガサガサした葉で、初めて見たとき「なんかえぐみが強そうだな」と思った。完全なる偏見であることは後に判明する。
 野菜売り場にある植物はすべて食える、というのが信条なので、ひるみはしなかったが、ちょっと身構えた。
 帰宅後、検索したら、和名を厚岸草(アッケシソウ)というらしい。そちらは聞き覚えがあるような。
 海藻ではないが、海で育つらしく、潮の味が沁みついているのだという。びっくりして、ひとつふたつ葉を拾い、洗ってかじってみた。…ほんまや。
 厚岸は北海道の地名らしい。すなわち、国内で自生しているのだ。ところが、日本では絶滅危惧種に指定されており採集は禁じられている。なので、輸入物しか食ってはいけないのだそうだ。ちょっと笑ってしまった。
 レシピでは、まず塩抜きすべしとあった。
 たしかに塩はきつい。が、変に味を奪いたくない。
 ちょっと考えた末に、ざっと洗って、生の豆腐をまぶしつけて食べた。白あえではなく、あくまで生。砂糖もしのび辛子も入れない。冷ややっこを塩気で食うイメージだ。
 で、これが案外旨かったのである。青くささも感じない。また出逢えたならリピートは確実。美味であった。
 余談ではあるが、シーアスパラガスは秋になると紅葉するらしい。別名を「サンゴ草」といって、群生地は真紅のカーペットを敷いたようになるそうだ。北国の、秋の海というのもオツである。いつか訪ねてみたい。


散文(批評随筆小説等) 珊瑚草を喰ふ話。 Copyright 46U 2021-09-17 23:59:57縦
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