マーク
どん底

重く重くぶれた日の或るひかり
カーテンのない窓辺には
マークと名づけた鉄線の花が一鉢
そのひかりを啄ばんでいる

今日お母さんの夢をみた
あたしを掬いあげてほほ笑んでいた
ああ、あたしは腐った水だったんだ
(あたしとの視線はひとつもあわなかったけれど)
でもお母さんはほほ笑んでいた
今日お父さんの幻をみた
あたしを吸いあげてほほ笑んでいた
ああ、あたしは腐った空気だったんだ
(あたしとの会話はひとつもなかったけれど)
でもお父さんはほほ笑んでいた

今日あたしは
あたしという現実は
ああ、たしかに腐っている
お母さんは背中しか見せないけれど
ああ、たしかに水を掬いあげて食器を洗っている
(あたしの食器は一つとてないのだけれど)
お父さんはあたしが見えないけれど
ああ、たしかに空気を吸いあげて煙草を燻らせている
(あたしのお腹は煙でみたされているけれど)
ああ、それはあたしではないけれど
ああ、そこにほほ笑みはないけれど
ああ、たしかに視線も会話もなく
ああ、たしかにあたしは腐っている

重く重くぶれた日の或るひかり
すきま風が吹く窓辺には
マークがその鉄線の花の字のとおり
ちいさなバリケードを張って
わたしをそのひかりから守ってくれる

今日あたしは本当に消えてなくなろう
あたしはここにいるけれど
あたしはあたしじゃないから
あたしはもう消えているけれど
あたしはあたしとして消えてはいないから
だから今日本当に消えよう

重く重くぶれた日の或るひかり
くもの巣が掛かった窓辺には
あたしの嫌いなでもどこか望んでいたひかり
マークはそのひかりを啄ばんでくれる

ねえ、マーク
あたし消えるよ
せめてあなたの肥やしとして
だから示してほしい
あなたがあたしを吸いあげて
あなたがあたしを掬いあげる
その道しるべを
今度はもっとたくさんの
花びらの生えた風車の花となって

ねえ、マーク
はやく空たかく飛ぼうよ
あたしが大好きなあのひかりのもとへ
たとえその日が重く重くぶれていようとも
ああ、もう腐りはしないよ
今はあなたが誰よりも
あたしのそばにいるのだから
たしかなあたしがここにいるのだから
あなたにはあたしが要るのだから
あたしが要るのだから


自由詩 マーク Copyright どん底 2005-04-17 20:23:15縦
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