キスも抱擁もない歴史
こたきひろし

時給900円
一日八時間
週五日
一日当たり150円のガソリン代
その他に何もなし
あるのは

半年ごとの契約更新

以上から年金健康保険等など引かれる

私の年収は幾ら何だろう
計算した事ない
毎月の手取り額はしっかりと頭に入るけれど

ああ
何があっても
この社会の底辺迄は沈みたくないと言う思いに
必死にしがみついて
生きてきた

重ねた歳月
途中どうしても欲しくなった
家庭と家族

与えられた命はたった一個しかなかった
なのに
幸福を手にする為に産まれてきたんじゃないと
イヤと言う程に知ってしまった

苦しみと
悲しみと
痛み
そして虚しさ

それらを拾い集める為に
この世界に産み落とされたんだ

それを解って
母親は産んでくれたのか

それを解って
父親は一粒の種を落としたのか

そして
私には二人から
温かいキスも抱擁もされた記憶はなかった

言葉にならない
さびしさがこの胸に降って積もる







自由詩 キスも抱擁もない歴史 Copyright こたきひろし 2020-10-20 05:22:43
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