ブルースブラザース、日本へゆく第三章 38
ジム・プリマス

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 食事を済ませたエルウッドは店を出て、モーテルへと、急いで車を走らせた。チェック・インの時間が午後十時までと聞いていたからだ。もう午後の九時を回っている。もたもたしていたら間に合わない。電話に出た、受付の男性によると、店の前の道を北へ、道なりに1マイルほど走った、右側にモーテルがあるとのことだった。
 鬱蒼と茂った草や林の間に、ぽつぽつと明りのついた民家や、閉まった商店や、看板が建っているウッドビル郊外の田舎道を、真っすぐに15分ほど走ると、闇の中に明るい照明が光っているのが見えてきた。あれがモーテルに違いない。
 道路から右折してモーテルの明るい照明のついた看板の前を過ぎて、空いている駐車スペースにレガシィをとめる。レガシィの他に、八台ほどの車が駐車してあった。車を降りて、カバンを二つさげたエルウッドはモーテルの玄関に向かった。
 煉瓦造りの、左右非対称の平屋の細長い建物の、中央から左寄りのところが、前にせり出すように、三角屋根の丸いホールになっていて、左右に照明の付いた、大きな両開きの、自動スライド・ドアの玄関の右側に、手すりの付いたスロープが付いている。そこを入っていくと、右手に明り消えた結構、大きめの食堂が、入口のガラスのスライド・ドア越しに見えた。ホールは吹き抜けで、木の屋根の骨組みがむき出しになっていて、食堂の上だけに中天井が付いている。中天井の縁には木製の手すりが見える。
 食堂はホールのほぼ、半分を占めている。左手にはチェック・イン・カウンターがあり、カウンターの前には背もたれの付いた三人は座れる長椅子が、二卓ずつ、二段に並んで置かれている。
 長椅子をよけて、カウンターの前にエルウッドが立つと、カウンターの中の初老の黒人の男性が、慇懃に頭を下げながら「エルウッド様ですね。ようこそいらっしゃいました。」と挨拶した。その男性の胸についた名札には「トーマス・マクブライド」と書かれていた。
 エルウッドが「どうして僕がエルウッドだって分かったんだい。」と尋ねたらトーマスは親し気な笑みを浮かべて「この時間に電話をかけてきたのが、エルウッド様、お一人だけだったので、間違いないと、そう思ったのですが。」と答えた。
「ああ、そう。チェック・インをたのむよ。」エルウッドがそう言うと、トーマスは緑色の表紙のついた分厚い宿帳を開いて、空いている場所をボール・ペンで指し示しながら「こちらにお名前を署名して下さい。」と言ってエルウッドに手に持っているボール・ペンを手渡した。


散文(批評随筆小説等) ブルースブラザース、日本へゆく第三章 38 Copyright ジム・プリマス 2020-10-11 02:28:25縦
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