乾いた音階
塔野夏子

九月が 群れをなして飛び去ってゆく
胸には 乾いた音階

湖畔を歩きながら
あのひとと約束した
――次に会うのは オールトの雲あたりで

やわらかな忘却が
夢のふちで微笑んでいる

空虚と諦念
その裏の炎と水

あのひとの瞳に映る空と虹と
闇と光と 花々をそよがす風と
霧に包まれた街路と そこをゆく人の背と

――次に会うのは 彫刻室座超空洞のまんなかで

乾いた音階から
音符がひとつひとつ はぐれてゆく

何処へ
空虚と諦念
けれど その裏に炎と水

やわらかな忘却を眠らせて
あのひとの瞳が映したあらゆるものを
またあらたな音階へと
紡ぎゆける日まで



自由詩 乾いた音階 Copyright 塔野夏子 2020-09-27 12:05:05
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