罪状(自由律俳句)
直治

立てかけたギターが倒れかける夏
しずかな映画のしずけさを引き摺る
いつしか終わっていた曲と雨ふる
きつい煙草をあげた夏の畔
死にぞこないの春だ
ちぎれた雲がふいとさみしい
こんな小さな破片に傷つけられてもう夏だ
無精髭撫でてやる午後の陽光
仏滅の日の髭づら死んだ目をする
雲を焦がして咲こうとする夕映
濡れた破片が光っている 
雨がぽつぽつ私の罪状
朝がまるで幸福みたいな顔をしやがる
吐いた窓辺に雨がつめたい
ふりむくとかなしみばかりある朝光る
鈍い速度で街の灯火を眺めている
となりの花壇も眠っている
街も口つぐんでどうしようもない
陽も焼け落ちて傷ほかす場所もない
朝陽射すベランダで今日も死にたい
むなしさの数かぞえ朝におびえるばかり
こんな奥部屋にまで初夏
明るい寂滅に頬照らされている
ふりむく横顔がなつのひかり
傷口いとしい夕暮れの町工場
許されたかった真夏日ふみしめている
だんだんと波ひいて足音きこえる
夏晴れにハイライト吹きかけている
橋をわたる娼婦たち緑雨踏みしめる
待ち呆けてほんのり茜空がひびいている
母を傷つけた破片が光る
すっかり夏の顔してベランダの蝶も
しずけさに嗚咽が刺し傷のように光る
借りた本返しにいく真夏日の校庭をよぎる
壊れかけの自転車漕いで海にいく死にたい
ほんのり日傘をさしている
雨ふりやさしい傷口にふれる
空も眠っている白い花
薄暗い五線譜撫でてみる
働きたくない白湯飲んでいる
薄汚れたギター立てかけて夏
身体こわして辞める子泣かしている静寂
ちょっとしたさみしさがあって氷が溶ける

Twitter,note→@Naojihaiku


俳句 罪状(自由律俳句) Copyright 直治 2020-07-31 21:53:44
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