言ってやろうか。聞かせてやろうか。
こたきひろし

言ってやろうか 聞かせてやろうか
俺を産んだ女は無学で
字もろくに書けねえ読めもしねえ女だった

昭和二十年
この国は戦争でぼろ負けになり
東京辺りは焦土と化してしまったけれど
嫁ぎ先は山んなかの僻地だったから
運よく戦火は免れた

なのによ
運悪く終戦前に亭主は戦地に召集されちまった
そんときには長女が腹に入っていた
幾ら時代だからといっても心細かったろうし
想像できない辛酸を舐めたんだろうな

でも女は強いよ
そんな戦時を身重の体で生き抜いて
無事に俺の姉ちゃん産んだんだからよ

俺の親父も凄かった
五体満足で帰って来たんだからよ
可哀想に親父の弟は南方の島で
玉砕しちまったのによ

親父が無事に帰って来てくれたから
俺はこの世に産まれて来れたんだからよ

命の連鎖に繋がれて
俺はこの世界にオギャアオギャアって産声をあげられたんだからよ

有りがたく頂戴して
俺は俺で俺の遺伝子を一人の女に
女は女で
自らの養分を惜しみなく与えてくれた
そして産んでくれた

感謝感謝感謝
全ては感謝

命のリレーは
命のバトンで繋ぐんだ




自由詩 言ってやろうか。聞かせてやろうか。 Copyright こたきひろし 2020-07-26 20:50:29
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