インソムニア
直治

冴え渡る赤信号のしずけさ
誰もいない青さの中にたたずむ
くやしさ敷きつめて眠れぬ夜となる
さびしんぼうの月あかりがそよいでいる
子供じみた言い訳で日が暮れてくる
たばこ眠れぬ夜を灰にするひととき
溶け切った氷のそばでうつむく
なぐりがきの後悔とたばこが終わる
さみしい夜の空白埋めるすべない
もう忘れたいなにもかもが春のゆき
しずけさうちよせて耳が淋しい
進まない時計がひとつだけある
代わり映えないベランダをもどる
死にたい黄昏の葉をもいでいく
たばこひそひそ燃える風の音する
朝から父をどやしつける母と居る
しずけさつたって風がながれてくる
たばこのうまさ遠くへ飛ばしている
ふいと風にたぶらかされている夜中
そこかしこ休んでいるひとのいる浜辺
眠れぬ夜をとりいそぎ灰にする
鳴りやまないサイレンをうしろにして眠れない
しなびた老階段にて影を溶かす
名状しがたい何かがゆきすぎ春の末路
やがて遠くなる足音につれ暮れる
職安の春も満ちてきた
昼のにぎわいの職安に居る
へこへこ足らない頭さげている
死にたい顔が夕暮ぶらついてる
ひなびたがらくたをみせつけている春だ
眠れない心音にゆさぶられてる
壊れたガラス瓶の夏だ
煙もぞくぞく夕焼けてきた
伸びたすね毛をはだけて夏だ
はやばや時過ぎてゆくに白い肌


Twitter →@Naojihaiku


俳句 インソムニア Copyright 直治 2020-05-31 15:03:46
notebook Home 戻る  過去 未来