飛行機
こたきひろし

飛行機に乗ったのはハネムーンの一回だけ
幸せの絶頂期
まさに天にも昇る気持ちだった

でもね
その時はまだ入籍してなかった

お金なかった
けど
式をあげてささやかに披露宴はした

結婚したくて結婚した
結婚したいから交際をした

でもね
愛情ってよく解らなかった

お互いそうだったんだろうな
いざ入籍という日に喧嘩した

だから愛情ってよく解らなかった
因数分解より難しかった

算数は得意だったけど
数学がどうしても理解できなかったからさ

いざ入籍という日に喧嘩した
もう別れようかと思うくらいにお互い冷めた

でもね
今さら後には引けないから役所で婚姻の契約はした

それで
愛情っていったい何なのか
ますます解らなくなった

セックスなら
火を見るより明らかなのにさ

いつでもセックスをしたくて
結婚したのかも
解らない

ピストルで言えばそれが引きがね

弾丸は命中して
一人目が産まれた

一人っ子は可哀想だから
二人目を計画した

弾丸は思い通り命中して
二人目が産まれた

でもこれ以上は無理だと思ったから
家族計画は打ち止めにした

それで妊娠を怖れるようになった
自然に夫婦生活控えめになった

気がつくと無くなっていた

ますます訳がわからなくなっていった

それでも家族はどんどん形を作られていった

男は父親になり
女は母親になっていった

なのに食卓の上には愛情という
調味料は見つからなかった

飛行機に乗ったのはハネムーンの一回だけ
それからはずっとずっと陸の上を
歩いているよ
どちらかと言うと地面を這いつくばって

愛情なんて幻なんだって
最近になって痛いほど解ってきたよ

それでもいいんだって思っているよ
それだからこそやってこれたんだって
思っているよ

だっていちばんに可愛いのは
自分なんだから
自分が幸せになりたくて
家族を引き寄せたんだから

飛行機に乗ったのはハネムーンの一回だけ




自由詩 飛行機 Copyright こたきひろし 2020-05-23 07:50:49
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