求めるものは
岡部淳太郎

大勢の見知らぬ人々の中にいた
右も左も定かではない
私と同期することのない人々の中で
求めるものを待ちつづけていた

この見知らぬ運命たちの巣窟に
誰一人として私の運命に関わってこない場所で
求めるものが見つかるはずと信じて
人々の息が通り過ぎるのを聞きながら待ちつづけた

私は何も知らない異人でしかなかった
どうして人々が彼等以外の顔をしてここにいるのか
どうしてそれほどに熱い心を持って集まっているのか
それすらもわからずに一人で立ちつくしていた

やがて求めるものが可憐な雨滴のような
細く折れやすいものが現われた
だがそれは一瞬垣間見えただけで
見知らぬ人々の息の合間に夢のようにあるだけだった

私があれほどまでに求めたものは
美しい姿のままでやがて消えていった
その背中はぼんやりとまた当然のように
見知らぬ人々の行き交う中に消えていった

私が求めていたものはあの時ほんの瞬間
姿が見えただけで満足すべきであったか
光が明滅する薄暗い空間で
はかなくも輝いていたものよ

それともそれはまた別の時にいつものなじみの場所で
動かしようもなく私の前に現われるか
また今日のような遠い見知らぬ場所で
疲労とともに捜索しなければならないか

結局私が求めていたものも
私を容れることのない見知らぬ世界の法則の中にあったのか
それを知ろうとしない私には永遠に
求めきることの出来ないものであったのか

私は疲れていつものねぐらへと帰る
その夢の中で求めるものは
私の変らぬ渇望として誘うように
また導くようにあるだけだろう



(二〇一五年四月)


自由詩 求めるものは Copyright 岡部淳太郎 2020-04-26 16:50:06縦
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