空瓶
ホロウ・シカエルボク

あの年の十月
酒場で知り合った
ヤギという男と二人で
ミシシッピ・ワンの合図でショットガンをぶっ放した
ホリデイで賑わう
陽の当たる大通りで
男も女も、ポリスも子供も
血を吹いてぶっ飛んで
ズタ袋みたいにそこらへ転がった
時々
わざとすぐに引鉄をひかずに
散々命乞いをさせてから殺したりした
あの時
あの瞬間
俺たちは
大勢の運命を握る神だった
たった二丁のショットガンで
どんなやつの運命も思い通りだった
弾はたっぷりと用意してあった
軍隊が来るまでは持ちこたえられるくらいに
五十人近い数をぶっ殺したとき
僅かの油断でヤギが眉間を撃たれた
俺は動揺して逃げてしまい
あっという間に囲まれてホールドアップされた
公にはされない暴行を受け
おざなりな裁判にかけられた
「死刑にするべきだ」みんながそう言った
もちろん俺の弁護士以外はということだけど
それから長いこと
独房で生きていた
朝起きて、飯を食って
散歩をして、作業をして
昼飯を食って、中庭でだらだらして
誰かの喧嘩を眺めながら夕食を取り
暇潰しのお祈りをして
眠くなるまで本を読んで
存分に眠る
そんな一日を
気が遠くなるほど繰り返した
まだ殺されないのか
時々はそんなことを思いながら
俺は
自分が憎かった
自分を酷く醜いものにして死にたかった
捕まるつもりなんてなかったけど
まあそんなことはどうでもよかった
自分が自分を憎むくらい
いろんなやつに憎まれながら死にたかった
だから幼いうちから
くだらない人間になろうと決めていた
母親を殺した
十歳になったばかりの時だ
階段から突き落として
みんな事故だと思った
俺の仕業だなんて誰も考えもしなかった
父親は勝手に死んだ
どこかの野っぱらで銃口をこめかみに当てて
孤児院では喧嘩を繰り返し
あっという間に追い出されては
別のところに連れて行かれた
何度か盗みで捕まってからは
施設だの鑑別所だのと
薄汚い施設を渡り歩いた
何人かが俺とつるみたがったが
俺は仲間を作らなかった
あまり必要だと思わなかった
ヤギを誘ったのは気まぐれみたいなもんさ
クスリも女もやらなかった
そんなものになんの興味もなかった
俺はとにかく
たくさん人をぶっ殺して死刑になりたかった
どうしてかって?
俺にもそんなことはわからない
ただ自分がそうしなければならないことだけがわかっていた
初めて銃を手にしたとき
ゾクゾクしたぜ、こいつが俺を地獄に連れて行ってくれるって
沢山の人間を傷つけたけれど殺しはしなかった
それはここぞという時にとっておきたかったから
腹に響く火薬の音
血塗れで転がるやつら
あらゆる種類の泣き声や呻き声
悲鳴
セクシーだった
俺は興奮して喚き散らした
意味のない、どうでもいいようなことを
独房は好きだ
ここにはなにもない
俺にしっくり来ている
どれくらいの時が経ったのか
少し無駄肉が気になり始めたころ
どうやらもうすぐらしいという雰囲気が伝わってきた
皆隠していたけど
俺にはなぜかはっきりとわかった
俺は映画を見るみたいにそんな毎日を生きた
やがてその時が来た
何か食いたいものはあるかと聞かれて
お前らが飲んでるコーヒーでいいと答えた
食ったって仕方がないのだ
俺は紙コップのコーヒーをすすり
牧師がなんやかんや話すのを聞いた
牧師は自分の意味を疑問にも思っていないみたいに見えた
時間が来て
電気椅子に座った
目隠しをされ
濡れたなにかが頭にあてがわれた
それからヘルメットのようなものをかぶせられた
「最期に言い残すことはあるか」
「ない」と俺は答えた
生まれたときから最期だった
そんな人間になにを言い残せというのか?
凄まじいショックが来て
俺はあっさりと死んだ
少しは怖気づくのかと思ったが
まるでそんなことはなかった
誰かの財布に投げ込まれるみたいに始まり
どこかで財布からこぼれて無くなる
そんな
硬貨みたいな人生だった
俺の死体は役に立つらしい
では
さようなら世界
もしも次があるなら
始めからどこかに閉じ込められたいな




自由詩 空瓶 Copyright ホロウ・シカエルボク 2020-04-06 00:35:21
notebook Home 戻る