銀 化
塔野夏子

外へ 外へと
言葉が拡散してゆくとき
内へ 内へと
深く問うものがある

あの日の歌が回遊してくる
おなじ言葉に
あらたな意味を帯びて

今はただ
あらゆる方向を指し示す
矢印たちのあいだをすり抜けながら
かぎりなく自由な
精神のダンスを試みる

聖者が来ようと来まいと
救いはもたらされねばならない
と 誰かが云った
遠い過去のこと
あるいは未来のこと

外の混乱
内の混沌
そのはざまから透明な帆をあげて
進んでゆくもの

数知れぬ引き裂かれた叫びと
沈鬱な だが不思議に美しい旋律が
夢の中に幾重にも谺した

外へ 外へと
言葉が旅立ってゆくとき
内へ 内へと
深く訪うものがある

錆びた日々
うち捨てられた日々
その感触を
消えない傷にかなしく歌わせて

重い夜に思う
深く深く埋もれた何かが
いつか幻よりも美しい
多彩な光を放つことを
古代硝子の銀化のように

今はただ
あらゆる方向を指し示す
矢印たちのあいだをすり抜けながら
はてしなく自由な
精神のダンスを試みる
(透明な帆をあげて進んでゆくもの)

遠い過去のこと
あるいは未来のこと
救いは思いがけないところから
けれど気づかれないかたちでもたらされる
と 誰かが云った

あの日の歌が回遊してくる
おなじ言葉に
あらたな
より広く深く響く意味を帯びて



自由詩 銀 化 Copyright 塔野夏子 2020-03-31 14:56:17
notebook Home 戻る  過去 未来