言葉屋
朧月夜

このお店は改装中です。
ですから、お立ち入りにならないでください。
改装が終わったら、
あなたも入ってみると良いですよ。

わたしは言葉を商っています。
わたしは「無限」という言葉の意味を知りたいのです。
無限の意味ではありません。
「無限」という言葉の意味です。

それがどんな感情を与えるものなのか、
どんな記憶に喚起されたものなのか、
その言葉を与えられれば、
どんな気持ちになるのか。

言葉を仕入れたつもりが、
言葉を売り払ってしまったことはありませんか?
言葉をかけたつもりが、
言葉をかけられていたことはありませんか?

言葉はとてもあいまいで、
どこにでもあるように見えて、
実はどこにもないものなのではないでしょうか。
現に、わたしは結晶した言葉以外を見たことがありません。

わたしは「言葉」という言葉の意味を知りません。
わたしは「意味」という言葉の意味を知りません。
言葉屋は皆言っていますよ、
「誰も本当の言葉の意味など知らない」と。

もしも言葉屋の改装が終わったら、
あなたも立ち寄ってみると良いでしょう。
そこでは、悲しい思いになることもあるでしょう。
そこでは、嬉しい思いになることもあるでしょう。

誰も本当の言葉の扱い方など、
知りはしないのです。知ってはいけないのです。
だから言葉屋は存在する。
そして、言葉はただあるのです。

生まれるために。死するために。
例えば「雨」という言葉を、
今日あなたは探していましたね。
それは見つかりましたか?

それとも、そんなものはどこにもありませんでしたか?
言葉屋には、きっと売っていますよ。
ですから、改装が終わったら立ち寄ってみてください。
あなたに素敵な言葉が見つかりますように、祈っています。


自由詩 言葉屋 Copyright 朧月夜 2020-03-26 19:10:15
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