羽根のように
岡部淳太郎

私たちの それぞれの思いは
どこまで届くのか あるいは
どこまでしか届かないのか

羽根のように
世界中の空に
いくつもの思いが飛んで
散らばっていった
白や黒や灰 あるいは孔雀の羽根のような色鮮やかなものや
それらの様々な羽根のような思いが飛んで
空間に舞って 風の流れに翻弄されて
ゆらゆらと揺れて
あるいはぶつかり合って
あるいは風に乗って遠くまで飛んでいって

そのために世界は美しく
そのために世界は醜かった

人はどこまで行けばいいのか
この世界の 謎のきれはしの
どれをつかんで
あるいは手放して
人はどこまでしか
行くことが出来ないのか

羽根のような思いが
それぞれの人の口から呼気のように吐き出されて
それらの思いの巷が
あちらにもこちらにも出来上がっていて
そうして世界はつくられていた
世界の重さと
人それぞれの
あまりの軽さが釣り合いをとって
この広がる空の下にあった

羽根のような思いを
次々に吐きだすことで人々は生きていた
そうやって歴史はつくられ
それぞれの人生もつくられていた
けれど 舞い上がっても落下してしまう思いもあって
羽根から翼のかたちになれずに
踏みつぶされてしまっていた
それらの落ちた羽根も
あるものは拾われ
あるものは拾われずにそこにあって
それでも次の思いは羽根のように
飽くことなく吐きだされつづけて

そのために人は強く
そのために人は脆かった

いまこの街の 喧騒のなか
人々がそれぞれに目的地に向かったり
家に帰ろうとしていたりするなか
ビル街の谷間から見上げる空には
無数の羽根がただよっている
それを何と素晴らしい眺めだろうと みんな見上げている
そこにそれぞれの思いがあって
やがてそう遠くない未来に
その行末が決められてしまうことも知らずに
その美しさに見とれている

人々の それぞれの思いは
どこまで届くのか あるいは
どこまでしか届かないのか
それを意識することもなく



(二〇一六年四月)


自由詩 羽根のように Copyright 岡部淳太郎 2020-03-14 12:57:15縦
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