ばかなねずみ、りこうなねずみ
はるな


ばかなねずみは、りこうなねずみとちょうど同じ数だけいる。
ぼくたちはばかなねずみで、たとえば角砂糖が落ちているのをみつけてはわあっとかけよって、けんかしながらあっと言う間にたべてしまう。そうしてねむたくなって横になってるとりこうなねずみたちがやってきて、角砂糖の落ちてきた角度から推察して砂糖壺をみつけて、そこから少しずつ、少しずつ毎日拝借しているってわけ。良い子のアーリヤが砂糖の減りがはやいのに気がついて、壺を隠してしまうまで三月は砂糖をなめられたんだって。でも一日にふた舐め、そんなのって!
ばかなねずみはばかだからすぐに死んでしまうけど、なんども、たくさん子どもをつくる。りこうなねずみは長生きだが、一生に一度しか子どもをつくらない。だからいつもちょうど同じ数。ぼくたちはわあっと増えてはわあっと死んでいき、いつもどこかで誰かが転んでいる。でも走るんだ(そうしないといけないわけがどこかにあるはずだけど?)。
あるときりこうなねずみが言った、
「あしたなにもかもが死ぬんだ」
りこうなねずみたちは頷いて、「あした」のために準備しはじめた。いちばん愛するねずみの横で死ねるように。いちばんきれいなおふとんで死ねるように。ひもじくもなく、寒くもなくあしたを迎えるために。
ぼくたちはーばかなねずみたちはー、悲しんだ。7分くらい、悲しんだ。そうして悲しみおえると、また走りだした。あしたが来る前にも、ぼくたちのうちの誰かがーあるいはぼく自身がー死ぬかもしれないし、死なないかもしれない。きのうや、おとといと、同じことだ。そうして、今日がきのうやおとといと同じなのだとしたら、あしただって、今日のようにすばらしい一日のはずなのだった。


散文(批評随筆小説等) ばかなねずみ、りこうなねずみ Copyright はるな 2020-03-11 16:45:53
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