器。
マッドビースト
一週間も社会にでていれば金曜の夜には心がカチカチなので
硬くなった心をすこしでも揉み解そうと長くお風呂に入って
みる。電気を消してずずっと湯船につかって口と鼻との間に
水面がくるようにして目をつぶっているとあまり長くつかっ
ているものだから皮膚がふやけてそのあとから自分の境界線
もふやけてくるような気がする。ああこんな埃っぽい入れ物
なんかおさらばで無形流形の水になって滑らかに生きるぞと
思って溶け出すとこんどは四角い湯船の端で行き止まりだ。
なんてこった今度の形は直方体で前より角がたつじゃないか
と残念やら呆れるやらしょうがないからもとの入れ物に戻っ
て風呂からあがってしぶしぶ戻ってくると彼女は粘土で作っ
た翼を僕のパジャマに着けて待っていてくれてそれを着させ
てくれる。まぁそんなものをくっつけているともちろん寝心
地がわるいのだけれどもいつもよりはよく眠れて心もちょい
と柔らかくなるので朝にはちょいと抱きしめてみたりもして
こんなことできるこの入れ物もなかなかいいと思いもする。