祖父
たもつ


祖父の名前をふと思い出して
口にしてみると
聞こえてくる祖父の名前がある
祖父は他界する間際まで
新鮮な毛布にくるまれ
駆けつけた親戚たちは
その周りで酒や水を飲んだ
酒も水も飲めない子どもたちは
祖父、祖父、と言いながら
乾いた口のまま眠ったりした
毛布のなかで祖父はウナギが食べたいと言い
ウナギは祖父に食べられたいと言い
どうしてウナギが祖父の好物を知っているのか
もしかしたら側で聞いていたあれが
ウナギだったのかもしれない
祖父が息を引き取ると
親戚たちは、また今度、と言って
一人また一人と玄関から出て行った
その中には今頃
誰かの祖父をしている人もいたはずだった
祖父が他界して何年経つか
指を折って数えてみるけれど
どうしたら祖父の名前になるのか
またあやふやになっていく
 
 


自由詩 祖父 Copyright たもつ 2020-01-31 18:39:41縦
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