Egg-Lab-Mates
AB(なかほど)



1

コミケの意味さえも知らずに、そこでは生身
のラムちゃんが見れると聞いたのもので。中
味も知らない冊子を所定の場所にドンと置く
と、待ってましたとばかりに、とは言え、一
言の発声もなく白い手がいくつも伸びて。た
だガロイ先輩の冊子の山は、夏の氷のように
無くなって。最後の一冊を手にとり、どうし
てこんなものが、と皆目見当もつかなくなっ
たところで、「代々木駅ホーム掲示板のカリ
スマだったんだよ」と、チブラさんが明後日
の方向を見ながらぶつぶつと教えてくれた。
そこで初めて、チブラさんのラムちゃんを想
像する。



2

その頃六本木で、夜な夜な扇子を振っていた
チブラさんは、今では黒門市場通りを疾走し
ている。とガロイさんが話してくれた。

そんなにくるくる回ってると溶けちゃうよ
って

大丈夫だよ
あたしゃバターにはなりませんよ
って



3

遺伝子マップを左手に、ぼくの好きな笑顔を
見せていたチブラさんの右手に、今、全遺伝
子配列図が握られている。笑顔を捨ててそれ
に埋もれていくのか、それともくしゃくしゃ
にして泣いてしまうのかを、今、僕は見てい
る。彼女から目を離しちゃいけないよ、と言
っていたガロイさん。今、僕が見ているよ。



4

行きそびれた 五時
帰りそびれた 五時
眠りそびれた 五時
咲きそびれた 五時
笑いそびれた 五時
泣きそびれた 五時
愛しそびれた 五時
呼びそびれた 五時
呼びそびれた 五時
君を呼びそびれた 五時
君の名前を呼びそびれた 五時
君の心に呼びそびれた 五時
君の名前を
忘れそびれた 五時
嘘つきばかりの
忘れそびれた 五時
眺めそびれた 空は
五時そびれた 五時



5

ガロイ先輩は割れにくい卵の研究に6年
チブラさんはすぐ割れる卵の研究に3年
間に挟まれる僕はただ暖め続けている
だけ
やがて
夕暮れになってやっと君たちは
俄然とやる気を出してくれる
とボスが漏らす
マトリョーシカ マトリョーシカ
孵ることなんか誰も望んではいない
マトリョーシカ マトリョーシカ
孵るとこなんか誰も知らない
という幸せ
マトリョーシカ マトリョーシカ
カタリ カタリ と
 


6

答えが見つからないと
三色定理の話をする人
答えは教科書にはないと叫ぶ人
明日の君達へ
鼻をたらしながら
ただの棒切れで遊んでいただけの僕も
瞳は輝いていたのかな
まだ知らない事があるんだ
まだ知らない事があるんだ
教科書には載ってはいない
medlineにも載ってない
心臓の横、みぞおちのちょっと下
心の底あたりでキュッとなるような
まだ知らない事があるんだ
もちろん君にも
まだ知らない事があるはずなんだ
(誰かに'愛してる’って言ったことはあるの?)
今日は眠れなくても
おやすみなさい
また明日
もしも君さえよければ
一緒に答えを探しに行こう








自由詩 Egg-Lab-Mates Copyright AB(なかほど) 2020-01-24 21:07:48
notebook Home 戻る