露命
どん底

逆巻いてゆく梅の旋毛の音
毛羽立ってゆく空の繊毛の音
双生の呼吸は必然と呼応し震えあって
楽想となりまだ鋭い風に乗る

独り春の闇を知らない
その冬化粧がだいぶ薄れた君の横顔
ふいに孤をなぞって流れるもの
それは涙ではないような気がして
地に近づいてゆくほどに漉されてゆく

独りうすく折りたたまれてゆく冬
ざわめく梅と空
折り目はその震えに寒さをおき去りにし
だまってそれを君は見て
非力な手をかかげ風にそよいでいる

独り足音を偲ばせ啼く闇
ざわめく梅と空
大気はその震えに淘汰され
だまってそれを君は見て
うつろな声をささめき風にそよいでいった

独り時はながれ続けていた
君の姿はもうない
ただそこには幽かな震えだけが
淡い色をつけ棚引いていた

楽想は君には届いたのだろうか
すると鋭い風が朧気にうそぶく
彼女はもう人ではなかったと

全てはすべてを放し隔てそして離した
もうその楽想を知るものは誰もいない
そう一人その地で濾過された何かをのぞいては


自由詩 露命 Copyright どん底 2005-04-03 17:50:39
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