ほとりにて
霜天

名もない川のほとりで僕らは何も知らずに生きている


いつかの雨で水かさの増えたその川の
どこかで誰かが流されたらしい
虫取り網を持った人たちが
すくって助けてあげるんだと
張り切った手のひらは笑顔だったので
最後には何も言えなかったりする時間が
流れない


ほとりに
堆積していくものといえば
僕らの背中のあたりから
剥がれ落ちた鱗のようなもの

夢に
時々には透明で
話し掛けてくる足跡が
川底の見えない場所で
きらきらと反射して
光が
流れていく鱗を追跡していることにも
意味はない
どこかの遠いほとりで
誰かが拾い上げた僕らの鱗でも
どこにも繋がることはない
いつかの、遠い遠い未来にも



水面で、跳ねる虫取り網が
収まらなかった誰かの想いをすくい上げる
それはそれで救った気分になるけれど
いつかから、ほとりに堆積している
変わることのない隙間なんだろう



今日も青で空を晴れて
僕らは何も知らずに生きている
名もない川のほとりにて


自由詩 ほとりにて Copyright 霜天 2005-04-03 02:07:07
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