わたしは記憶
ただのみきや

わたしは 年老いたわたしの失われた記憶
小さく萎縮した脳の中 仕舞い込まれて 
行方知れずの 動かしがたい過去の事実だ

茫漠として靄のかかる
瓦解した印象の墓場から
時折ガラクタたちが目玉や手足を生やし遺失物を装って 
微睡みの上澄みに油膜のように浮かび上る
微笑み あるいは恨めし気な後味の 波紋を起こしては
去って往く ――おそらく わたしは
当のわたしにとってそんなもの

ノックしているのだ 内側から
わたしはここにいると

一切は失われることなく今も共に 
わたしはわたしの中に在る

それを幸せなことだとは思ってはいない
わたしは過ぎし日の記憶でありながら
忘却の覆いの下に隠されて
顕在化されることもなく もはや他者と変わらないのに
他者としての歩みを微塵も許されない すでに
刻まれた事実以外 なに一つ

そのことに気づいた時
漠然とした口約束だった諦めを 証文にして
自らの実印を押したような感覚だった

言うまでもないが
わたしは過去のわたしが夢見ている憧れなどではない
そればかりは自明すぎて妄想すら追いつくことはない





                   《わたしは記憶:2019年8月15日》













自由詩 わたしは記憶 Copyright ただのみきや 2019-08-17 18:09:59
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