金曜日の夕方に
坂本瞳子

落ち込んだりもするけれど

うなだれて
ふてくされて
しばらくは動けなかったりするけれど

じっとそのまま寝そべってもいられなくって
お腹と背中の間あたりがジリジリとし始めて
伸びをして欠伸をして意外に大きな声が出たりして

涙がちょちょ切れたりするのに
悲しい気持ちはまったくなくて

それだのに喪失感というか倦怠感というか
どう言い表したらよいのか分からないような
あいまいな気持ちが充満していて
眠りすぎたときのように頭の中がぼんやりとして
きっとま抜けた面をしているんだろうないまの自分はと
口元だけはきっちりしっかり閉じてみたりする

ふん
ふんふんふふんふんふふん

鼻歌なんてきっともう何年も唄っていない
歌が歌いたい訳じゃないんだ
大きな声で叫んでみたりしたい訳じゃないんだ
暴れだすほどの気持ちをさらけ出してみる
矛先が見つからなくて
ちょっと誤魔化してみたりしたくなるんだ

それでもやるせない気持ちは消えなくて
だからこそ周りを見回しても視点が定まらず
挙動不審なふりをしてふらついてみたり
雨に降られてみたり風に吹かれてみたり
自動ドアに挟まれてみたり
階段を駆け下りながらよろけてみたりするんだけれど

高速エレベーターの中で目と耳と毛穴と鼻の穴とを全開にして
天井を見たまま瞬きせずに息もせずに
到着した五九階でジャンプしてみたい衝動を必死に抑えて
ドアが開くなり駆け出した
薄暗い非常階段を全速力で駆け下りて

地上階には辿り着けたんだったっけ


自由詩 金曜日の夕方に Copyright 坂本瞳子 2019-04-05 22:21:50
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