干からびた流木を集めて人生と言う筏を組めば
こたきひろし

娘が二人いて、二人共中学一年の終わり頃から不登校になったよ。
俺は三十代の半ばに縁があって結婚し所帯を持った。それ以前は飲食店の厨房で働き店を何軒か転々としていたが、十年近くはM駅前の洋風居酒屋で働いていた。
その頃に知人の紹介で嫁さんと知り合った。
結婚は、男と女の出会いの縁と成り行きなんだよな。
三ヶ月も立たない内に男女の関係になって、半年も立たない内に式を挙げて籍を入れた。
結婚を機に棲む街と住まいを変え工場勤めになった。
それまでの人生が一変してしまったんだ。
当然、巨大な波が押し寄せて来たよ。
波に飲み込まれたらお仕舞いだったな。人生の大きな賭けってやつよ。

最初の子供は女の子だった。三年過ぎてから産まれた二人目も女の子供だった。
我ながら計画的な出産だった。
それはいいとして。
女の子って可愛いよな。可愛くて可愛くて、もう男はいらないと思ったから三人目は作らなかった。
俺は臆病でひ弱な体だったから、男の子が反抗期になってもし暴れ出したら到底おさえられないと怖くなったから、男は欲しくなかった。それが偽らざる本音。

妻は、酷い偏頭痛持ちでいつも苛立っていた。外に出て働けない人だったからその分自分が必死に働いた。
娘二人は成長して中学に入った。俺は身を粉にして働いていたから子育ては妻に任せていた。
仕事は朝が早く帰りは遅かった。
だから俺は気づかなかった。妻は何も言わなかった。俺を気遣って一人で抱え込んだ。

俺には教育の方針なんて何もなかった。ただただ働いてお金を稼ぐ事に一生懸命だった。家族を養うのが俺の使命だった。自己犠牲の坩堝に嵌まっていた。
長女が不登校と知った時にも次女がそうなったと知った時にも何も出来なかった。
そうなった理由と原因さえも訊けず問い質せないままに現実から逃げてしまった。

川原の干からびた流木を集めて組んだ筏に乗ったら
いずれは壊れて足場を失い沈むとわかっているのに
川に漕ぎだした
少年の日の愚かな振るまいのように



自由詩 干からびた流木を集めて人生と言う筏を組めば Copyright こたきひろし 2019-03-08 00:14:14
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