黄金
後期

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ボタンエビの夢をみた(ワサビは付いていなかった)

おのさんは、新入りだった。システムに組み込まれるための面接。それは、三日前だった。履歴書に、たくさんの嘘を書いてしまった。写真すら他人だった。近藤真彦の写真を使った。ジーグザグ.ザグ・ジグザグ・ジグザグの時代の写真だった。程よい大きさで、捨てられていた雑誌に載っていた。拾ってやったんだから、顔の所有権も俺だろう、と思った。履歴上、東大法学部卒の、おのさんは、採用された翌日から、「ー」で名字を引きのばされたのだった。おのーはさぁ、ネタをのっける係だよ。ザンビア出身のババオさんが、上司だった。イクラの軍艦って、こわくないか?と、ババオさんが怯えてる。たくさんの真っ赤な目、悪魔よ。悪魔を、海苔で巻くニッポンジン、信じきれないよ。7割方信じきれていないババオさんは、9割強おのーを信じなかった。つまり、名目上ニッポンジンであるおのーは、16割信じられていなかった。おのーはさぁ、ボタンエビのシャリとのコンタクトの仕方知ってるだろう?おのーは、履歴上、極めてプライドが高かったので、勿論だとも!と、思った。勿論、おのーは、知らなかった。16割信じていないババオさんは、おのーは、さすがだよ、さすがのニッポンジンの一人だよ、と笑って、おのーはさぁ、すぐにのっけてよ、ボタンエビのっけてよ、のっけて、ニッポンジンのシャリとの関係を国際的に見せつけてよ!アンダースローされたボタンエビを、おのーはキャッチした。少年野球の経歴が活きた瞬間だった。しかし、その少年も嘘だった。むしろ少年サッカーだった。むしろ右で蹴り返したい、おのーであった。でも、あの小野では、間違いなく無かった。斧、であった。だから、小さい頃から、銀ですか?金ですか?と、沼のように周りから揶揄されるのであった。きまって、そんな時、おのーは、黄金と即答するのであった。黄色味がかった金。より金を香ばしい色にしたいと希求するおのー少年であった。おのーはさぁ、すごいキャッチャーだよ、と、ビビラさんが笑った。ババオがビビラに変わった瞬間だった。ビビラさんを、まだババオさんだと思い込んでいるおのーは、ボタンエビを素直に、のっけた。つまり、身の裏をシャリに接触させたのだ。ちげぇーよ!!ビビラさんがムムヒさんに変わった瞬間だった。2秒かかった。さっきは、3秒だった。1秒早くなった。記録の更新だった。ちげぇーよっ!!間髪入れず、ムムヒさんが叫んだ。ムムヒさんが、よりムムヒ的ムムヒに変わった瞬間だった。2秒かかった。入れてもいない間髪に、2秒かかってしまった。ムムヒ的ムムヒをまだババオさんだと思い込んでいるおのーは、何が、ちげぇーよっ!!なのか、まったく見当がつかなかった。見当がつかなかったが、自己防衛的反射による手のひら返しによるボタンエビ返りは、偶然にもシャリとボタンエビの裏(つまるところの背)との見事な接触を導く事となった。正解であった。ニッポンジンの美意識のなせる技か、オーバーヘッド.キック並みの宙空でのクネリは、スローモーション映像として視神経にギャンギャン伝達された。まさに間髪だった。間髪を入れない1秒もない無秒だった。記録の行き止まりであった。にもかかわらず、だから!ちげぇーって言ってんだろーっ!!ムムヒ的ムムヒがクロイワに変わった瞬間である。クロイワは、熊本出身である。バツイチである。四十半ばである。とても毛深い。だが、胸毛だけははえていない。スネ毛を擦って蟻の群れを作り出すのが好きである。それを人に見せるのがこの上なく好きである。身体中、蟻だらけにして喜んだ日も少なくはない。5秒かかった。中年にしては好記録である。もはや、記録などどうでもいいのだとタカを括り始めてもいる。記録などより、より、ちげぇーよっ!!を滑舌よく発せられるかに重きを置いているクロイワさんである。むしろボルドー色、濃いワイン色ですよ、好きな色を答える時、クロイワさんは、はにかんで口ビラを噛む。ガムのように、くちゃくちゃと。そして、脹らまそうとする。肉のビラを。困ったのは、おのーである。表でもダメ、裏でもダメ、となると、方向の問題なのであろうか?北か南か?いや、違うだろう。やはり、ものの表裏の問題だろう。クロイワさんを、いまだ、ババオさんだと思い込んでいるおのーは、ババオさんは、きっと見落としているのかもしれない、いやーっ、もしかして、ババオさんに試されているのかもしれないとまた表に返した。だからよっ!ちげっーーって言ってんだろーーっ!!バカヤロウ!!クロイワさんの「バカヤロウ!!」がでた。クロイワさんが宮本信子に変わった瞬間だった。ゆったり変わった。高名女優の優雅さで。花吹雪が舞った。チェロが鳴る。白いチワワが足元を闊歩する。宮本信子をいまだババオさんだと思い込んでいるおのーは、裏・表・裏・表・・裏・・・・表・返しをみっちり1時間、きつい照明に照らされつつ、やり続けさせられた。激怒した監督は、台本をシャリに叩きつけると帰った。白いレクサスで愛人宅へ。玄関へ入るなり、いきなり愛人の若い女優の卵である奥野細子の豊満な両胸をわし掴みにすると、先日銀座の高島屋で二人して選んだ舶来のネグリジェをビリビリに破き、だから違うだろー!と呻きつつ叫びながら、馬のようなイチモツを引きずりだすと、どーしたん?かんとくーーんっ?と戸惑う奥野細子をかえりみず、ねじ込み、痛っ!としかめヅラの奥野細子を鑑みず、痛っ!痛っ!の奥野細子を背後から貫くと、壊れたおもちゃのように腰を振り続けた。その間、おのーは、宮本信子が、如月小春に変わり、京村子に変わり、立眠竜子に変わり、二十億光年の孤独子に変わり、手紙の実用文集子に変わり、日本のいちばん長い日に変わったのを勿論知らなかった。日本のいちばん長い日さんは、バイセクシャルであった。互いに腹を斬り合うのを無常の喜びとする集団的個人であった。いまだ、集団的個人をババオさんだと思い込んでいるおのーは、これは、沼だとフッと想った。あたりに、フワーッと沼が広がった。手首返しを延々と続けながら、どこからか、銀の斧ですかー?金の斧ですかー?と問われているように想えた。神さま、ぼくは嘘つきで、嘘の塊ですが、今度こそ本当のことを言いましょう。ぼくは、銀でも金でもなく、ボタンエビです!ですから、神さま、どうか、裏か表かをぼくに問うてください!そうか、お前は、正直な斧だな!神さまは、感心して、裏のボタンエビも表のボタンエビもおのーにくれました。その瞬間、愛人宅の監督は逝き、おのーの全身は、黄金色に光り輝きました。




自由詩 黄金 Copyright 後期 2019-02-25 13:32:32
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