ミライ
後期

ミライ



彼女の部屋には小さいベランダがある

そこに大きな室外機がどんとある

猫の額に、犬が座っているようなものだ

そんな余白の無い欄外で

ぼくは、タバコをすいたい

この前の夜は、窓を開けて

身を乗り出して、すった

雨が降り出していた

粒が的中して、タバコが消えた

隣で、同じように身を乗り出していた

彼女と笑った

そして、またキスをした

キスでは、おさまらなかったけれど

彼女の舌には、つぶつぶが少ないように

おもわれる

そのつぶつぶっていうのは

乳頭と呼ばれるもので、卑猥な響きが

あるのに、人間の舌には

約10000個の卑猥な響きが

分布している

そして、その乳の頭には

味のツボミと書く味蕾(ミライ)が

花開こうとしている

食べ物の味を感じる小さな器官だ

だから、ぼくらは互いの舌を

充分すぎるほど、味わった事になる

噛み切り、吞み下したくなるほど

ミライを花開かせる



ミライは、タバコと加齢で衰える

ぼくは、タバコと加齢で衰えきった

ミライで、彼女の舌を味わっている

とても、美味しく

タバコも加齢も無ければ

どんな味だったのだろうか

想像が、出来ない

なぜなら、いまが

最高の味だと思っているから



タバコも加齢も無い

彼女の舌は、美味しく

ぼくの舌を、いただいて

くれているのだろうか

心配だ

つぶつぶが少ないように

感じられたのは

花開こうとしている蕾が

踏み荒らされていない

からなのかも

しれない



ぼくはタバコをすいたい

撲滅運動が

世界中で、巻き起こっているのも

よく知っている

迫害の棍棒が

群れをなして、ぼくを

滅多打ちにして、殺された

夢を、このまえみた。

ぼくは、なぜやめないのかと

問われると

脳のせいにしている

そうすれば、たいてい

重い犯罪者でも

死刑を免れるから



彼女は、タバコをすわない人だ

彼女は、彼女の部屋がタバコ臭くなるのを

嫌うだろう

でも、すっていいと言う

出来る事なら、ベランダで、ね。と



猫の額から、犬を追い出して

夜空を見ながら、すう

すっていると、彼女が来て

寒くない?と言いながら

近ずけて来る

ぼくは、タバコをいったんやめて

彼女を、すう



彼女は、

「タバコの味がする」と言って

ぼくを正確に味わう

少しだけ、彼女も

撲滅される側に、立つ。









自由詩 ミライ Copyright 後期 2019-02-25 13:10:56
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