でかぷりお
ツノル


レジは二つだけ稼働していた。
既に夕方のピーク時は過ぎていたので、客の気配もまばらだ。
係の若い女性は三枚の500円券にチェックの罰印をいれていた。
そこへ順番待ちをしていたキャップを被ったデカプリオ似の男が話しかけた。(お箸を一膳くださいね)
デカプリオに似ているとはいっても、目元がそのように映るだけで、マスクの下から白髪混じりの顎髭が伸びていて、中高年であることには違いないだろう。
(少々お待ちください、少々お待ちください)アルバイトのような若い女性はチェックを入れながらぶっきらぼうに返した。
終わると買い物かごにある商品の金額を打ち込みだした。
男は再び話しかけた(お箸を一つくださいね)。
(少々お待ちください、)若い女性は男の顔を視ることはなかった。
金額を打ち提示し終えると、男はぴったりの金額になるように札と小銭を取り出しキャッシュボックスに置いた、と同時に、その若いレジ係の女性が聞いてきた。(キャッシュですか?クレジット払いですか?お箸は一膳ですか?)
男の声が小さくてよく聞き取れなかったのだろうか。後ろにいた私にも聞こえてはいたのだが、、。
(一膳ですか?)
デカプリオの男はそのぶっきらぼうな問いかけがよほど気に入らなかったのか、それとも、二度も話しかけたのに無視されたその耳元に腹を立てたのか、少しの間が空いた。明らかに顔が強張っていた。それから声を荒げた。

(一膳だとさっきから言ってるじゃないか。なにが、少々お待ちくださいだよ。二度も言わせておいて、それくらいのことちゃんと聞いておけ!)

若い女性は高校生のアルバイトだろうか。べつに驚いた様子には見えなかったが、明らかに動揺していた。

(少々、お待ちください、少々お待ちくださ、い、、シールはご利用されますか?)

二つ離れてレジを打っていた同僚の若い男の子がその罵声に振り返る。何人か驚いた様子だった。

領収明細書と何かのサービス券を受け取るやいなや、その中高年らしき男はすぐに目の前で打ち捨てた。
大人げのないデカプリオだった。









自由詩 でかぷりお Copyright ツノル 2019-02-19 05:13:39
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