犬たちへ
帆場蔵人

いつか真夜中に犬たちの遠吠えが
飛び交っていたことがある
あれはいつだったか

野良犬というものをいつからか観なくなり
町はひどく清潔で余所余所しくなった
リードに首輪、犬たちも主人によりそい
しおらしく、家のなかにまで入れてもらい

お前たちの遠吠えは何処に消えた?

遠吠えが響く夜にわたしの心は野外にあり
星よりも夢中に夜の果てへ尾を引く遠吠えを
空を駆け上がるお前を、酒よりも女よりも
本すらも投げ捨て遠吠えに手をのばしたのだ

それはもう夢の中にしかない

しかし、犬たちよ
いつかその円らな瞳に、綺麗にカットされた
毛並みの奥の血潮が滾る夜がきっと来るのだ
リードも首輪も引きちぎり、遠吠えする夜が
約束されているのではないか

わたしの猫たちが鳴いている、遠吠えは
夜明けの稜線を越えてわたしたちの心から
遠ざかっていく




自由詩 犬たちへ Copyright 帆場蔵人 2019-02-17 22:13:10
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