淀みに浮かぶ、あれやそれ

例えば今、息を吐く。
そして、二度と吸うことが無くてもいい――

結論からいえば
その日は私の声音に含まれる死神の衣擦れが
転覆病の金魚の側線を掠めただけだった
パクパクする半透明な唇を読むまでもなく聞こえた
「いなくしほでん死」という呪詛の言葉

   【沈黙】

不自然なカットインに時間がねじ曲がりそうになり
エアレーションは低く抗っている
私は吐き気を堪えて湿気った窒素を水槽へ吹き込み
沈黙を不自然にフェードアウトさせた

   * * *

その髪は烏色
ではない
暗い暗い暗い茶色
赤みが
両親の血のような粘っこい赤が
光に浮き
闇には溶けきらない黒
っぽいやつ
とろりと排水口に溜まる
そして捨てる
今までも これからも
無感動な営みに
いつか
待ちくたびれていることも
忘れてしまう
川底に潜む角ばった石のように
色を持たない
可能性のひとひらとして

   * * *

空想世界では
あらゆる精神的な垣根を越えて
私たちの前に顕れては消える
選択肢が淀みなく循環するように
私は私を保つ
と同時に私の味方/敵/傍観者でもあるから
慈しみと嘲笑とが同居する
私には
叶えてはいけない夢がある

それ以外を些細なことに思わせる
蠱惑的ともいえるであろう夢を
叶えないように生きるのは滑稽で

ひどく 億劫だ

何もかも


、と
既に数え切れないほどの先人たちが考えていそうなことを思いながら私は、

   * * *

歳を取るにつれ
明るみを求めるモグラをよく見かけるようになった気がする
それはきっと
アスファルトや巨大な影で地べたを飾ることを豊かさと感じる
ネズミの社会と少し混ざってしまった為である
と邪推する私は
あのモグラやネズミの目から逃げ惑う無力な人間の一人なので
彼らのうたは努めて聞き流すことにしている
私には毒だが暗さを知っていると息巻く彼らには薬らしく
その多くは少しでも元気になると
ピュアなミミズを旨そうに啜りながらアリの平和を祈り始める

ということは
モグラの皮にはアリがぎっしり詰まっているのかもしれない
                        と
                    い
                     う
            こ
             と
    は

私の筋膜にはミミズがびっちり詰まっているのかもしれない

   * * *

何度言っても伝わらない言葉があると驚いたのは小学生になる前で
何度聞いても理解できない言葉があるのは私が小さいからだと思っていた

      定まらない
      ふつふつ
      穴だらけの膜が隔てる
      境界
      見せかけの平穏を構築する
      ホモジナイズされたホモサピエンス

   こちらをあちらにしたいなら
   擬態したまえよ君
   子供だった私にも出来たんだ
   そう難しいことじゃあない

もしも
あちらをこちらにしたくなったら
脳髄をあの穴へ投げ込むといい
何度往復しても延髄は変質しないようだから

   * * *

日の当たらない水槽の底砂利に無言のまま硬く沈んだ方の金魚をふかふかの雪に埋めて赤く冷えた指先の生臭い主張は油断すると凍りそうな水道の水で洗い流すしかなかった
必然

なんてね、
美化し過ぎで笑っちゃう。悪い癖だな、白々しいったらない。
誰の呼気にも無色透明な死が含まれている、
ということは、ただの事実であって慰めにはならないのに。
わざわざ書き留め投稿しているのは、
きっと、

暇だったからさ

――例えば今、目を閉じる。
そして、二度と開くことが無ければいい。


自由詩 淀みに浮かぶ、あれやそれ Copyright  2019-02-14 16:20:57縦
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