腕時計への讃歌
帆場蔵人

五四年前の東京で
出稼ぎに出ていた大叔父が
なけなしの給料でお前をかったのだ

それから朝も昼も夜も
休むことなく
一日 八万六千四百回
時を刻む勤勉なお前は大叔父の誇りだった

東京から郷里に向かう汽車を待つ間に
大叔父は妻となる女性を待ちながら
お前と何度も見つめあい
語り合ったのだ
未来を

そして時は流れ
ぼくの腕でお前は変わらず
時を刻み
彼女を待つときには
震える身体を規則正しい鼓動で
落ち着けと諭してくれた

携帯電話が登場しても
身体の一部のようにお前はいる
夏には手首に日焼けの跡をつくり
それをみた子どもが笑う

いつか歳をとり
時刻すらわからなくなっても
お前は時を刻み続けるだろう
共に歩んだ時を刻みつけて

カチコチとカチコチと
地球と共に周りいく
友よ


自由詩 腕時計への讃歌 Copyright 帆場蔵人 2019-02-11 00:15:05
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