出立
オイタル

少し早く出かける
済まないがと
彼がつぶやく

老いた女が項垂れて座り
若い女が水を飲みに立つ

それから彼は黙って
寂しい灯りの並ぶ切通へ
ゆるゆると上って行く

いいのかな
もういいのか
夢はたんと
飲みおおせたのかしら

一月の夜の底を
小さく円くくりぬいて
無数の人の群れがぐるり進む
風の端切れを捲りながら

そのくりぬいたものを
円く積み上げて
無数の人の群れが町を進む
黒白の階調を保ちながら

ああ それは
でも もういい
よいだけ飲んだ
いつかの春の花の盃

行方知らない川波の
転がる微かな音を聞き逃さず
私たちも行きますから
ゆるゆる

それが標であるから
静かな標であるから


自由詩 出立 Copyright オイタル 2019-02-10 16:19:04
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