帆場蔵人

あゝ、わたしの枕元に
瑞々しい橙を置いたのはだれでしょう
橙の一つ分、ちょうど掌に一つ分の匂いが
わたしを空に誘います

いつかの夕陽からこぼれ落ちた
橙が
たわわになった
樹々の間をわたしは吹きぬけます
姉さんは小麦色で
兄さんは紫煙をふいていて
おっちょこちょいの叔父さんが
顰めっ面の父と将棋を指しています
母はいません

あゝ、夕陽が沈みます

ちょうど掌に一つ分の橙の匂いが
わたしのすべてみたいで

今はないものたちが
橙の匂いに誘われて
かわるがわる枕元に訪れては
歌ったり泣いたりするのです

あゝ、わたしの枕元に
瑞々しい橙を置いたのはあなたですね
でもあなたはだれなのでしょうか?

あなたもちょうど掌に一つ分の
橙の匂いをしてるのですね


自由詩Copyright 帆場蔵人 2019-02-09 01:34:16
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