樽のなかの夢
帆場蔵人

ほら、樽のなかでお眠りなさい
煩わしいすべてをわすれて

檸檬かしら、いえ、林檎でもいいわ
樽のなかを香気で満たしてあげます

息を潜めて、あ、とも、うん、とも
言わないで猟犬を連れた
猟師たちが立ち去るまで

いいえ、いつまでいても構わない

やがて涙で樽が満たされたら
言葉も忘れて悲しみも忘れて
丸く円くまるく果実のひとつになって
檸檬でも林檎でもない不思議な果実に
なれることでしょう

綺麗に磨いてあげましょう
あなたの痕跡は果実の皮に
微かに残る涙の微かな曇り

丸く円くまるくまろい果実

出荷され輪切りにされても
もう誰もあなたに気づきはしない

ほら、樽のなかでお眠りなさい


自由詩 樽のなかの夢 Copyright 帆場蔵人 2019-02-04 19:11:06縦
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