迷宮の子どもたち
塔野夏子

迷宮の子どもたちが
歌う歌が聞こえてくる
たのしげに聞こえてくる

迷宮でずっと迷いつづけて
つらくはないのだろうか彼らは

  僕らは生まれたときから
  ずっとここで迷いつづけてきた
  僕らは迷うことしか知らないんだ
  迷うのが僕らのあり方
  迷うのは楽しいよ
  自分が今どこにいるのかわからない
  こんなにわくわくすることはないよ

迷宮の中しか知らないことは
さびしくはないのだろうか彼らは

  迷宮の外に出てしまうと
  僕らはもう迷うことがなくなるの?
  それならずっとこうやって
  楽しく迷っていたいな
  自分が今どこにいるのかなんて
  はっきりするのはつまらないな

迷宮の子どもたちは
たのしげに歌いつづけている
迷宮の外にいる私は
自分が今どこにいるのか知っている(と思っている)私は
なぜかふと彼らがうらやましくなったりするが
自分がその迷宮には入れないことも
仮に入っても迷うことを楽しめないことも
知っている

迷宮の子どもたちの歌は
たのしげに響いている
私は胸のどこかでずっとそれを聞きながら
迷宮の外を歩いてゆく




自由詩 迷宮の子どもたち Copyright 塔野夏子 2019-02-03 12:23:08
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