時の経過を待っていたから
こたきひろし

一人にたった一つしか持たされていなかった
それを
いつかは黄泉の国に落としていまうとわかっていても
一分でも一秒でも長く持っていたいのは
誰しも切に願う事

名を呼んだけれど応答がなかった
無理もない
私と血と肉を分けあっていたその人は
眠るように死んでいたのだから

その
幸福を満面に表したとしか思えない死に顔の裏側には
彼女が生きていた間の苦悩と悲しみが有ると
私を含めて皆が知っていた

彼女の顔は透き通り
化粧が施されていた

その安らかな死に顔は
本当はずっとこの日が来るのを待っていたに違いなかった
彼女の
脳内の血管が切れて半身が麻痺した十年の歳月
姉と弟の
他愛ない誤解と確執がなぜかうまれて
その間私は姉と一度も会うことはなかった

十年後の再会
全ては洗い流された

この次は黄泉の国で会うしかないと
冷静にとても冷静に思ってしまった私は


自由詩 時の経過を待っていたから Copyright こたきひろし 2019-02-01 04:26:06
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