花の分身
服部 剛

植木鉢の
しおれたシクラメンに
水をそそぐ

日中は出かけ、帰宅すると
幾本もの首すじはすっと伸びて
赤紫の蕾がひとつ 顔をあげていた

先週、親しい伯父が病に倒れ
ふいに訪れた伯母は
玄関先で妻に、鉢を渡した

「この花を主人と思ってください」

   * * * 

病院のベッドに横たわる伯父は
両手にぶ厚いミトンをめられ
不自由な体のまま
薄っすら涙を溜めていた

傍らの椅子に座った、僕は
痩せた肩に手をあてて
静かに、目をつむ

――真白いキャンバスには
  午後のベランダの風景画
  僕は、窓を開き
  日の当たる場所に
  シクラメンを置いた

まぶたを開けると
伯父の頬に窓から、陽が射していた  






自由詩 花の分身 Copyright 服部 剛 2019-01-29 22:02:22縦
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