故郷
中原 那由多

目覚めの一杯、その珈琲は
欠伸より先に注がれて
眩惑が晴れたのちに
細胞膜へと浸透してゆく
窓際の古い毛布を染める東雲を背に
明けの明星は針であるかのように
在りし日の純白に突き刺さる

(手を叩く)
目を見開いた

石灰のラインは静かに千切れてゆく
その光景を焦らず眺めていられることが

お前へのせめてもの償いとなるのだろうか

淡い三日月、青天の霹靂
涙が乾く前に畦道の行進
サウンドホールにこだまして
故、児、呼と喉が鳴る

台山を巡り、大河の流れに逆らえば
学び舎は正義の人道
その尊さを仰ぎ
夕焼け小焼けのやまびこと
橋を渡り、坂を下ろう

宵の明星は幼子のシャボン玉に屈折して
遊具に虚像を映し出す

一つ弾けて人となり

二つ弾けて夢となる

これは
願い、だ

一つ弾けて人となり

二つ弾けて夢となる

その飛沫が
埋めた覚えのない
タイムカプセルの在処を指し示す

錆びれた踏切を通過した
貨物列車の三連符が

はじめ つづき おわり
はじめ つづき おわり
はじめ つづき おわり

随分と遠回りをしたのかもしれないが
私は、ただひたすらに

お前の帰りを待つ人となりたい



自由詩 故郷 Copyright 中原 那由多 2019-01-29 20:40:44
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