そらの積層
帆場蔵人

そらが幾層も山に降り積もって
ぼう、と滲んだ白さが上にゆくに
つれて青へと近づいていく

山に登る彼は雲海や山頂からの
景色の素晴らしさを語るのだけれど
彼にはこの山に降り積もるそらは
みえないのだろうか

ほら道行く人たち
見てみなさいな、あのそらの積層を!

古代からの贈り物を!

幾千億の視線が降り積もってきた
健やかなる時 病める時 幸いなる時が
そらとなって彼処にはあるのだから
あれこそが夢であり唯一の真実だ

白姫が息吹くそらが
山に降り積もるとき

白梅はまだ眠りのなか

そらはやむことなく
冬眠する熊たちの
つむりにふりつもり
眠りのなかへなかへ
そらは落ちてゆき
わたしも眠りゆく

そらとわたしがぶつかると
すべてのひとの夢がはじまり
樹々は手をひろげて
そらと抱擁しあうだろう

山にはまだそらが燦々とふり
白梅の蕾から吐息、幽けき吐息
春を夢みるすべての吐息、碧く


自由詩 そらの積層 Copyright 帆場蔵人 2019-01-24 21:54:07
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